証明責任について
証明責任は誰が負うのか
まず、原理原則として、ある事実について「有る」か「無い」かの意見の対立が生じた場合、証拠を提出する義務と証明を行なう責任は、「有る」と主張する側が負うことになります。
しかし、民事訴訟における証明責任の分配については、実体法(民法など)の規定の仕方と解釈によって、証明責任は分配されるとされています。(法律要件分類説《通説》)
この考えから、債務不履行と不法行為の場合で、立証責任を負う人が異なっています。
債務不履行の場合、立証責任は債務者にあります。(権利障害規定、以下参照)
債務者が自分に非のないことを証明しなければなりません。
これは、すでに交わされた契約(約束)を「反故にした」ということで債務者側の過失(契約違反)が推定されるため、債務者側に過失の無かったことを証明させるようにしたものです。
これに対し、不法行為の場合、立証責任は被害者にあります。(権利根拠規定、以下参照)
被害者が加害者に非があることを証明しなければなりません。
以上から、債務不履行と不法行為が競合するような事案であれば、債務不履行を根拠に相手方を追及する方が、債権者(被害者)にとって都合がよいことになります。
民法条文
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
法律要件分類説
1、権利根拠規定
権利の発生を定める規定の法律要件に当たる事実は、その権利が発生したことを主張する当事者が主張・立証責任を負う。
2、権利障害規定
権利の不発生(法律行為の無効等)を定める規定の法律要件に当たる事実は、その権利が発生しなかったことを主張する当事者が主張・立証責任を負う。
3、権利消滅規定
権利の消滅を定める規定の法律要件に当たる事実は、その権利が消滅したことを主張する当事者が主張・立証責任を負う。
4、権利阻止規定
権利行使を阻止し得ることを定める規定の法律要件に当たる事実は、その権利行使を阻止し得ることを主張する当事者が主張・立証責任を負う。